2009.10.31 Saturday
漂流 吉村昭 転覆漁船からの生還を聞いて
これは江戸時代に遭難した土佐の漁師、長平の物語である。
長平らを乗せた船は折からのシケで難破。無人島に漂着する。合わせて4人の漁師は助かった喜びもつかの間、絶海の孤島に絶望を強くする。火山性の島には植物はほとんどなく、木の実などの食べ物もまったくなかった。
洞窟があったので入ってみるとそこには人骨が。明日の我が身を知り、一同は嘆くが、長平は諦めない。
この島は、実は八丈島の南の鳥島で、無数のアホウドリがいたため、長平らは鳥を拾った木で殴り殺し、生のまま食べる。
鳥はあるとき一斉にいなくなることを知り、おそらく人骨はそれを知らずに餓死したのだろうと、鳥がいなくなる前に干し魚の要領で鶏肉を干して蓄える。
水もないが、雨水を鳥の卵の殻に貯めて飲む。
仲間は足腰が立たなくなる。それは洞窟にこもっているだけで運動や海草などの植物を取らないためだと、長平は積極的に浜に出て海草を食べる。そして平地を見つけてランニングする。
しかしそのうち、一人死に二人死に、自殺する者まで出て長平は一人になる。
それでもあきらめず、長平は助けの船が来るのを待つ。
着ていた服はぼろぼろになり、代わりに鳥の羽根で作った{服}を着る。
ある時、海岸からこちらに向かっている足跡を発見する。難破して島に上がった漁師がいた。
長平は久しぶりに会話をし、島で生き延びる方法を話す。また、新たな難破者も、残っていた米を惜しげもなく長平に差し出す。
筆や大工道具を持っていた新参者のおかげで、鳥に木切れをつけて手紙を書いてみるが、翌年も何も起こらない。
そして長平はついに「船」を作り、島を抜け出すことを提案する。それには大工道具の存在が大きかった。
船の材料となる木は難破船のものであり、自分たちが助かるためには人の不幸を待たなくてはならない矛盾が生じる。
ようやく木切れが集まり、釘を作り、木切れを組み合わせ、残り少ない着物で帆を作り、長平らは沖に繰り出す。
長平は12年後に土佐に帰ることができた。
この作品は森谷司郎監督、北大路欣也主演で映画にもなって、先日日本映画専門チャンネルでも放送された(DVD未発売)。
まさにサバイバル、生き残るためにはどうすればいいのかを伝えてくれた力作だった。
吉村昭は江戸時代から伝わる遭難者の断片的な記録を丹念に集め、それを作品に昇華させた。
そしてあきらめない気持ちの大切さ、健康を維持する方法を漂流という異常事態を舞台に、切々と伝える。
今回の漁船員はたまたま水密室にいたという幸運と、わずかな水を分け合い、外に出ることをせずに発見されるのを待ち続けた忍耐が生還につながったのだろう。
船長ら死者や、行方不明者がいるのは残念だが、大きな希望を与えてくれた。
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