ロンドンの地下鉄の出来事。ある紳士が椅子に座り、カバンから平べったい何かをとりだした。
「あ、もしかしてあれは」
話題の電子ブック、
Amazonキンドルだった。日本ではまだ発売されていないが、おそらく今年中に日本語版が発売されると思う。ちなみに英語版はすでに
日本からでもアマゾンで購入できる。
電子ブックは1995年ごろからソニーの
データディスクマンという小型の液晶付きCD−ROM読み出し機が発売されていた。この機種は持っており、広辞苑などの辞書、ウルトラクイズなどの双方向性の半ゲームのディスクを持っていた。
しかしながら液晶画面が小さく暗く、キーボードも小さくて操作しにくく、ほどなくヤフオクで売ってしまった。
その後、液晶画面が大きかったりカラーになったり、キーボードも打ちやすくなったようだが、市場から消えていった。
ソニーは
リブリエという、より大型の、情報検索よりも書籍閲読を主眼とした電子ブックも発売していたが、これも何年か前に姿を消した。
このように、電子ブックは古くから業界が取り組んできたものの、市場に受け入れられずに消えていった運命にある。
けれども今年になってアマゾンのキンドルに続き、アップルが
iPadを発表し、アメリカでは4月3日、日本では4月末に発売すると言う。ソニーも北米で
リーダーと言う名称の新しい電子ブックを発売しており、ここにきてにわかに電子ブックの市場が活発化してきた。
おりしも、
出版界はインターネットの普及と不況が重なり、状況は厳しい。電子ブックは自らの首を絞めることになりかねないかもしれないが、新しい販路として電子ブックに賭けるため、大手13社からなる
日本電子書籍出版社協会を立ち上げ、今年に入ってから活発な協議をしている。
電子ブックの黎明期はCD−ROMを大手書店や家電量販店で売っていたけれども、昨今はネットで配信するインフラが整ったため、豊富なアイテム数やダウンロードの簡便さから、以前と状況は大きく異なる。
私はネットやケータイの普及で、
文字を読む機会が増えたと思っている。紙の上に印刷されたいわゆる活字ではない。デジタル活字とでも言うべきか、液晶画面上に表示される文字のことである。同時に文字を書く機会も格段に増えたと思っている。
紙の書籍が電子化されれば、販路は地球規模で拡大するし、在庫のストックもサーバー(ハードディスク)にあればよいだけ。キンドルがそうであるように、単価は下がり、作家への印税は増える。
特に、
絶版や店頭から消えて久しい書籍はどんどん電子化するべきだと思う。
ブックオフに代表される新古書店に著作権侵害だと文句を言うよりも、自ら電子化して販売すれば、むしろ作家や出版社にとってもメリットが大きいと思える。
もっとも作家や出版社の経営者、編集者は
ITに疎い人が多そうだし、
敵意すら持っている人もいるだろう。普及のハードルは意外とこんなところなのだと思う。あるいは、書籍と同額かそれ以上にしないと書籍との競合が成り立たない(書籍が売れなくなる)と思っている人もいるだろうが、短編を10作集めて短編集として1500円で売るよりも、短編を1作200円で売ったほうがよいと思う。このあたりはすでに
音楽業界で、アルバムではなく1曲単位のネット販売がすでにメジャーになっている。
ロンドンの地下鉄で紳士がキンドルをカバンから取り出して読んだ前の席では、若者がPDA(スマートフォン)をいじっていたし、その隣の若者は携帯ゲーム機に講じていた。
これからの市場はどうなのか、出版界や作家はもっと見極めたほうがいいと思う。